Webライターのくろです。
今回は、宮部みゆき著の『魔術はささやく』(新潮社、1993年)の書評をしていきます。
『魔術はささやく』の書誌情報
著者:宮部みゆき
出版社:新潮社
発売日:1989/12/1
【著者情報】宮部みゆきのプロフィール
生年月日:1960年12月23日
活動期間:1987年~
代表作:『龍は眠る』(1991年)
『火車』(1992年)
『理由』(1998年)
『模倣犯』(2001年)
『名もなき毒』(2006年)
『ソロモンの偽証』(2012年)
主な受賞歴:
- オール讀物推理小説新人賞(1987年)
- 日本推理サスペンス大賞(1989年)
- 吉川英治文学新人賞(1992年)
- 日本推理作家協会賞(1992年)
- 山本周五郎賞(1993年)
- 日本SF大賞(1997年)
- 直木三十五賞(1999年)
- 日本冒険小説協会大賞(1998年)
- 毎日出版文化賞(2001年)
- 司馬遼太郎賞(2002年)
- 芸術選奨(2002年)
- 吉川英治文学賞(2007年)
- 菊池寛賞(2022年)
Wikipediaより
あらすじ
最初の女性はマンションの屋上から飛び降りた。次の女性は地下鉄に飛び込み、三番目はタクシーの前に…。誰にも気づかれずに仕組まれた三つの事件。魔の手は四人目に迫る。だが逮捕されたタクシー運転手の甥・守は、知らず知らずに伏せられたカードをめくり始めていた。―見事な構成、卓抜な文章力、生き生きとした人物像、爽やかな読後感。ページを繰る楽しさを選考委員に絶賛された話題の第2回日本推理サスペンス大賞受賞作。
「BOOK」データベースより
以下に私が作成したあらすじも載せておきます。ご参考までにご覧ください。
キーワードにより、ある事件の関係者を操り、次々と自殺に追いやっていく謎の老人と、その謎に迫る主人公守。横領犯で行方不明の父親を持つ守は、叔父夫婦に育てられている。ある日、タクシー運転手である叔父が若い女性を轢き殺してしまう。実の父親に続き、育ての親である叔父までも罪を背負うと思われたその時、目撃者の男が現れる。その目撃者の証言により、叔父は釈放される。その後、守は目撃者である男の世話になるのだが、その男こそ、行方不明の父親を轢き殺した人物であった。その真実を謎の老人から知らされた守は、老人から男を裁く手段を与えられる。その手段を使って自ら裁くべきなのか、守は悩む。激しい葛藤の末、守の下した決断とは如何に。
本作のキーワードは「アンビバレンス」
そもそもアンビバレンスとはと思う方がいると思いますので以下に意味を示します。
アンビバレンス(ambivalence)同一対象に対して、愛と憎しみなどの相反する感情を同時に、または、交替して抱くこと。精神分析の用語。両面価値。両面価値感情。
デジタル大辞泉/小学館より
とあります。
要するに、同じ人や物に対して相反する感情を抱くことという意味です。
わかりやすいように親子という例をあげて説明します。
子からすると、自身を養ってくれる親に対して、少なからず尊敬の念を抱くことが多いでしょう。
しかし、親の見たくはない一面を見てしまった時、そこには軽蔑という感情が生まれることがあります。すると、親という同一の対象に対し、尊敬と軽蔑という相反する感情を抱くことになります。
このような状況をアンビバレンスと言うのです。
守は男に対するアンビバレンスを如何に受け止め、どのような決断を下したのか。これが本作における最終的なアンビバレンスです。「父親殺しの真犯人かつ叔父を救った人間」を裁くか否か。
本作自体には「アンビバレンス」という言葉は登場しませんが、作品全体でアンビバレンスを疑似体験させてくれる内容になっています。
【名フレーズ】くろが気になったフレーズを紹介
作中にこのようなフレーズが登場します。
人間の心というのは、両手の指を組み合わせたような形をしているのではないかと思うことがあった。右手と左手の同じ指が、互い違いに組み合わされる。それと同じで、相反する二つの感情が背中合わせに向き合って、でも両方とも自分の指なのだ。
まさに本作を表したフレーズ。非常に巧みな表現だと思います。このフレーズは私が2番目に好きなフレーズです。(尚、1番目は『模倣犯』のあのフレーズ)
【感想】
筆者には本作を通じ、自身に内在するアンビバレンスと向き合った結果、達した考えがあります。それは、相反する感情どちらも自分の感情なのだから、無理に結論を出そうとする必要もないということです。この概念を持っているだけで、日々発生するアンビバレンスに悩みすぎるということが少なくなりました。
本作ではアンビバレンスがモチーフとなっていますが、守のアンビバレンスに読者が理解を示せるのは、宮部みゆきの人物描写の緻密さにあることを痛感しました。
宮部みゆきというと執拗に登場人物の背景や描写を描くという印象がありますが、どの作品もそれが生きているのです。本作は特に人物描写が生きている作品だと感じました。
人間はだれでもアンビバレンスを抱える生き物ですので、皆さんにもぜひ一度読んでいただき、本作が悩み解決のきっかけとなってくれることを祈っています。
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